
ものすごい怒りを感じる時に「はらわたが煮えくり返る」と言います。とても辛い気持ちを「断腸の思い」と表現します。このような日本語で示されるように感情と腸管の運動、腸管の感覚は密接に関係しています。ストレスや精神的疲労、強い情動体験は腸管の生理的反応を引き起こし、この反応が生活に支障を与えるレベルになると過敏性腸症候群と呼ばれる腸管(小腸、大腸)の病気になります。
下痢、便秘、腹痛で苦しみ、日々の生活に大きな支障がでているけれども、内科的検査では異常がないとされるかたの多くは過敏性腸症候群であると考えられます。ひと昔前はノイローゼ扱いされて胃腸神経症と呼ばれました。しかしながら現在では多くの医療関係者がこの過敏性腸症候群という病名を知るようになりました。おそらく人口の15%ぐらいの方が「過敏性腸症候群」のために苦しんでいると推定されます。しかしながら、過敏性腸症候群の治療についてはいまだ著しく進歩したとは言えず、通常の内科的治療を受けても治らない患者さんがかなり多数おられるのが現状です。
以下の3種類の症状からなっています。
腹痛と便通異常(下痢・便秘)の2大症状です。この症状による苦悩のために日常生活、社会生活に大きな支障が出ているということが診断をする上で重要で必須な事項になります。
過敏性腸症候群をタイプ別に分けることは診療上とても役に立ちます。どのタイプも腹痛、下痢・便秘(便通異常)を基本の症状としますが、最も苦しんでいる症状をもとにしてさらに次のように分類します。
以上の分け方は実際の診療でとても役に立つものです。しかし現実には、各タイプが混ざっていることがほとんどで、厳密に分けられるものではありません。また無理に分ける必要もありません。あくまでも便宜的な分類です。
*当院Dr美根らが書いた「過敏性腸症候群ガス型の特徴と治療法」についての論文が「Cureus」という英文学術誌に掲載されました。
英語論文の全文はインターネット上でご覧いただけます。
消化されたものや便は腸管の蠕動(ぜんどう)という規則的でなめらかな運動によりスムーズに肛門に向けて運ばれます。しかしながら過敏性腸症候群においては、この小腸、大腸の規則的でなめらかな運動がうまくできなくなります。小腸、大腸全体にわたってそれぞれの部位が勝手に激しく収縮して運動の規則性がなくなります。分かりやすく言えば「腸管全体がけいれん状態」となっています。このけいれん状態をスパスムと呼びます。そして,スパスムのために強い腹痛、腹部不快感、下痢、便秘、腹部膨満感、放屁などが起こります。このような状態を腸管の運動機能異常と呼びます。ストレス、怒り、不安、精神的緊張は脳の情動中枢を介して自律神経系による調節系を狂わせて腸管の運動機能異常を引き起こします。それは情動中枢と内臓をコントロールする自律神経中枢はほぼ同じ脳部位だからです。過敏性腸症候群の病状が長く続くと、その症状に伴う苦悩そのものが強いストレスとなり強い脳疲労状態が起こります。そのために発症時のストレス状況がなくなっても、腸管の過敏状態が続き予期不安だけで腸管の運動機能異常が起こり、症状が持続、増悪します。
内科、消化器科などで一般的な治療を受けても、改善がみられないかたがかなりおられます。そのようなかたに対しては以下の治療を行います。
きちんと治療ができれば多くの方は改善して日常生活、社会生活上の支障が大きく減ります。最終的には薬をほとんどのまなくていいようになるかたも多くおられます。そのような状態に至るかどうかは脳疲労からの回復がうまくいくかどうかにかかっています。
(文責 美根和典)